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【2024年度・第5回】10月24日開催記録


 「人的資本経営研究コンソーシアム」の第5回研究会が2024年10月24日(木)に慶應義塾大学三田キャンパスにて開催されました。


1)ワーク・エンゲイジメント~健康増進と生産性向上の両立に向けて

慶應義塾大学 総合政策学部教授 島津 明人様


 慶應義塾大学SFC研究所で「仕事とウェルビーイングコンソーシアム」を運営されている島津様より、健康に良くパフォーマンスも上がる、一粒で二度おいしいと言われる「ワーク・エンゲイジメント」についてお話ししていただきました。 


 ワーク・エンゲイジメントとは、仕事に誇りを感じ、熱心に取り組み、仕事から活力を得て活き活きしている状態を言うそうです。そして、メンタルヘルス対策のようにマイナスをゼロにする動きではなく、個人や組織の良いところを見つけて伸ばしていくものであり、一人一人が強みや持ち味を発揮できるかを考えていくものだそうです。


 リーダーのエンゲイジメントは部下に伝わるという研究があり、上司のエンゲイジメントが高いと部下のエンゲイジメントも高くなる傾向があるとご紹介いただきました。また、小売業における売上の調査においては、ワーク・エンゲイジメントの高い売り場は売上高が高いという結果が出たようです。ただ、職場の平均値を同じとした場合、ワーク・エンゲイジメントのばらつきが大きい職場は、かえって売上高が下がるという結果も見られたようです。このことから、できるだけ多くの人のエンゲイジメントを底上げすることが大事だと言えそうです。


 エンゲイジメントを上げるには、仕事のストレス要因を減らし、資源を増やすことがポイントになるとのことです。仕事の資源としては、上司や同僚からのサポート、成長機会、経営層との信頼関係など、個人の資源としてはHERO(Hope希望、Efficacy自己効力感、Resilienceレジリエンス、Optimism楽観性)などが、それぞれ代表的な資源と言われています。具体的には、参加型のワークショップを行いながら、職場の良いところを見つけて伸ばしていく取り組みや、CREWプログラム、ジョブ・クラフティング等があるようです。また、思いやり行動にも注目すべきとのことでした。お互いちょっと手を差し伸べる行動を職場全体で増やしていくことができるかどうかが大事になります。


 ご講演の後に、ワーク・エンゲイジメントやウェルビーイングに関する問いについて、グループごとにディスカッションをしていただきました。島津様の「仕事とウェルビーイングコンソーシアム」と本コンソーシアムの共催で、11/29には「産学連携ウェルビーイング公開シンポジウム 「企業価値とウェルビーイングの向上を見据えた働き方 ~フィンランドと日本企業の事例から考える~」」も開催予定です。



2)オリックスの企業文化とパーパス&カルチャー

オリックス 執行役 コーポレート部門 人事、総務、広報、渉外管掌取締役会事務局長 石原 知彦様


 続いて、研究会の参加企業様の1社、オリックスの石原様よりオリックスの企業文化とパーパス&カルチャーについてご講演いただきました。石原様はパーパス策定の事務局を経験された後、人事に異動され、パーパスの浸透のお取組みを自らの手で進めていらっしゃいます。


 リースを主業として、関連する幅広い事業分野をもつオリックスは、中途入社の社員さんが約4割を占めていることもあり、自由に議論をして新しい取組みやサービスを生み出す社風があるそうです。幅広い事業が運営できているということは、支えている人材がいるということで、これまでに育ってきた文化は自然発生的に生まれてできていった文化だということのようです。


 パーパスの策定は、3年前の社長のかけ声から始まりました。これからのオリックスを導く若手に作ってほしいという指示だったようで、海外のメンバーも巻き込んで、ミニオリックスグループを作って実行されました。オリックスを動物に例えたら何になるかというユニークなワークショップをはじめ、半年をかけて様々なワークショップに取り組み、丁寧にパーパスの策定を進められたようです。事業の幅が広いためメンバーの意見をまとめるのが大変で、創りたい未来を考えるフェーズで苦労されたとのことでした。パーパスの策定プロジェクトを通して、参加メンバーが徐々に会社のことを自分事化でき、暗黙知を言語化することの重要性にも気づくことができたようです。


 最近の出来事としては、部門や子会社が独自でMVVを策定し始めたり、英語版の「Finding Paths. Making Impact.」が日本でも浸透し始めたりしているとのことでした。石原様、貴重なご講演、ありがとうございました。



3)経営戦略の理論研究の現在地から人的資本経営にアプローチする

慶應義塾⼤学 総合政策学部准教授 琴坂 将広様


 最後に、慶應義塾大学の琴坂様よりご講演いただきました。経営戦略の伝統的理論背景から始まり、理論研究における新潮流としての「論理と感情」、そして理論研究の黎明期にある実務的トレンドについてお話ししていただきました。

 

 経営理論としての複雑なモデルがある中、企業の経営戦略としてどうすれば価値があるものにつながるかという問題意識があったようです。また、かつては投資をしてから収益化するまでのスパンが長かったのですが、今は競争優位が持続しないという現実もあります。そこで経営戦略としては、「意図された戦略の論理的深耕」と、「創発的な戦略の感情による探索」の2つの方向性に拡張されてきているとのことでした。つまり、意図された戦略をどう詳細に科学的に実行するかと、創発的なものを確立に任せず、どう意図的に起こすか、という2点が着目されています。


 論理的深耕では、非財務的先行指標に基づいた決定が行われていたり、スタートアップにおいてユーザーの行動データなどを活用したりしている事例を紹介していただきました。感情による探索においては、人工的に文化を創ることを探求する取り組みが行われているようです。例えば、新興宗教の研究をすることで、どのように企業文化を加速度的かつ人工的に作り出せるかや、エモーショナルケイパビリティを能力として捉え、組織にとってメリットのある行動を人工的に作っていくことができるか等についての研究が行われているようです。


 最後に、理論研究の黎明期にある実務的トレンドとして、アジャイルを大企業にも取り入れることや、サステナビリティ、政府や政治に対するアクションについて教えていただきました。伝統的な経営戦略は古びていくので、経営戦略としても様々な取り組みをしていて、その中で人事や人的資本がカバーする領域であるインセンティブや感情・人間の活動の世界に踏み込もうとしているという非常に興味深いお話しでした。


 次回、第6回は11月13日(水)に開催予定です。ダイバーシティーをテーマに取り上げます。

 
 
 

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