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【2025年度・第7回】2月2日開催記録


「企業価値に資する人的資本経営コンソーシアム」の第7回研究会は、2026年2月2日(月)に慶應義塾大学三田キャンパスにて開催されました。



研究会会場となった、三田キャンパス東館G-Lab
研究会会場となった、三田キャンパス東館G-Lab

プログラム 1) 

「社員エンゲージメントをブランド価値に結びつける」

株式会社博報堂コンサルティング シニアコンサルタント

HRデザインラボ 所長

福原 大介様 

 

 ブランド経営と人材・組織開発の両分野に精通する、福原大介さんによるご講演です。福原さんはまず、社員エンゲージメントを「従業員満足」や「働きがい」にとどめず、生活者にとっての魅力的な体験、すなわちブランド価値を生み出す源泉として捉える必要性を強調されました。


福原大介さん
福原大介さん

 その考えを可視化する指標として提示されたのが、HRデザインラボが開発した「HR-Brand Power」です。この指標では、社員一人ひとりが指示された業務をこなすだけでなく、自ら考え試行錯誤する「創意工夫した振る舞い」の実践度を主要なKPIとしているそうです。

 

 調査結果によると、HR-Brand Powerが高い企業ほど、BtoC・BtoBを問わず外部からのブランド評価も高い傾向が確認されたといいます。さらにBtoBブランドにおいては、HR-Brand Powerと株式購入意向との間に相関が見られ、インナーの状態が市場からの評価と無関係ではないことが示唆されました。中でも重要なのが「チームのブランドコンディション」であり、ブランドの目指す姿や提供価値が共有され、称賛や対話が日常的に行われているチームほど、創意工夫のある行動が促進されやすいそうです。

 

 また福原さんは、調査結果よりエンゲージメント向上施策の「導入率」と「効果」にも言及されました。多くの企業で導入されている1on1や目標設定、表彰制度は、必ずしも社員の行動変容につながっていないケースが見られます。一方で、日常的なフィードバックや相互称賛の仕組みは、導入企業は少ないものの、創意工夫した振る舞いを促す効果が高いことが明らかになっているといいます。制度の有無というよりは、現場での運用の質が問われていると言えそうです。

 

 さらに、創意工夫を持続的に生み出す概念として「プレイフルワーク」が紹介されました。これは、仕事を単なる労働として捉えるのではなく、裁量やフィードバック、学習機会を通じて、自分なりの工夫を楽しみながら成果を出す働き方です。成功体験だけでなく失敗も含めたフィードバックや、知見をチームで共有する環境が、このサイクルを支えていくのだそうです。

 

 後半では、社員エンゲージメントをブランド価値に結びつける上で欠かせない要素として「組織文化」の可視化が取り上げられました。福原さんは、組織文化を理念やバリューだけでなく、現場で暗黙的に是とされている思考や行動のクセとして捉える重要性を指摘。研究によって導出された、組織文化を表す4つの因子と16の類型が示されました。

 

 終わりに福原さんは、MVVやパーパスを現場に根づかせるためには、会社視点でのMVVやパーパスを、各部門視点へと丁寧に接続し直すことが不可欠だと述べました。具体的には、MVVやパーパスを実現する上での「各事業の意義」や「各部門のアイデンティティ」を再定義し、「各部門で必要となる人材の振る舞い」や「各部門で取り組むべき業務の設計」へとつなげることがポイントとのことです。人的資本経営を理念やスローガンで終わらせず、日々の仕事と結びついた行動変容へと落とし込めるかどうか。その成否が、ブランド価値創出の持続性を左右すると言えそうです。

 

 講演後のグループディスカッションでは、エンゲージメントスコアと業績との結びつきの重要性や、有用なスコア設定の難しさと具体例などが話し合われました。



プログラム 2)

「取締役会と人事部門:コーポレートガバナンス改革が人事部門にもたらす影響」

株式会社ボードアドバイザーズ

プリンシパル 辻 拓己様

 

 事業会社での人事やタレントマネジメント、HRBP、指名委員会の高度化等の経験を経た後、ボードアドバイザーズにて、取締役会実効性評価や指名・報酬委員会の機能強化、CEO後継者計画など企業統治アドバイザリーを通じて日本企業の持続的な企業価値向上を支援する、辻さんによるご講演です。


辻拓巳さん
辻拓巳さん

 辻さんはまず、コーポレートガバナンス改革の本質について、「単なる制度対応ではなく、『マネジメントボードからモニタリングボードへの移行』が求められている」と強調されました。取締役会は執行の意思決定を細かく管理する場ではなく、戦略の方向性と経営者の選解任を通じて企業価値を監督する役割へと重心を移しています。その結果、プライム市場では監査等委員会設置会社が増加し、社外取締役比率も着実に高まっています。こうした構造変化は、執行の迅速かつ果断な意思決定を促す一方で、取締役会の監督機能の質がより厳しく問われる状況を生み出しているそうです。

 

 次に焦点が当てられたのが、指名委員会とりわけCEO後継者計画です。辻さんは、指名委員会の開催頻度が増え、形式的な人事決議の場から、継続的なモニタリングと議論の場へと変わりつつある点を紹介しました。社長の在任期間については、短ければよい、長ければよいという単純な議論ではなく、実証研究が示す「逆U字型」の関係を踏まえる必要があると指摘しました。在任期間は一定期間において企業価値は高まるものの、長期化すれば過去の成功体験への固執や外部情報からの遮断が起こりやすくなり、結果として企業価値を毀損するリスクが高まり得るリスクがある、という実証研究を紹介されました。

 

 さらに、独立社外取締役の構成と役割についても重要な論点が示されました。独立社外取締役の人数は増加しているものの、「誰を選び、どのようなスキルや経験を期待するのか」という質の議論は、まだ発展途上にあるといいます。取締役会は少人数かつ固定メンバーで構成されるため、感情や関係性が意思決定に影響しやすいという構造的特性を持ちます。辻さんは、多様な視点を持ち込み、経路依存に陥らないための人選と、入れ替えの仕組みが不可欠だと述べました。

 

 講演全体を通じて一貫していたのは、「正解は一つではない」という姿勢です。機関設計、社長の任期、社外取締役の構成はいずれも企業ごとの戦略や置かれた環境によって最適解が異なります。辻さんは「取締役会と執行の結節点として、人事部門がより積極的にコーポレートガバナンスに関与し、企業価値向上という目的に向かって、継続的に問い直し続けるイニシアティブを持つことが必要になってくるのではないか」と述べ、講演を締めくくりました。

 

 講演後のグループディスカッションでは、任意の指名委員会において、指名委員会が後継者計画にどこまでコミットするべきかや、社外取締役の経営に関する知見と独立性のバランス、などが議論されました。



プログラム 3) 

「人総ダッシュボードの作成」

アルプスアルパイン株式会社 

人事戦略推進室 人事戦略推進課

課長 田中 浩之様

 

 アルプスアルパイン社で新卒入社以来一貫して人事業務に携わり、現場とコーポレート双方の経験を経て、現在は人事戦略推進室で人的資本経営の実践を支える田中さんによるご講演です。人的資本経営を現場でどう動かすかについて、率直な問題意識が語られました。



田中浩之さん
田中浩之さん

 田中さんがまず共有したのは、アルプスアルパインの成り立ちと人材に対する基本姿勢です。同社は2019年にアルプス電気とアルパインが統合して誕生しましたが、統合後しばらくは企業ビジョンが十分に共有されていない状態が続いていました。そこで近年、グローバルの社員も巻き込みながら「人の感性に寄り添うテクノロジーで未来をつくる」というビジョンを再定義し、社員一人ひとりの仕事と会社の方向性を結び直す取り組みを進めています。創業以来掲げてきた「人に賭ける」という精神や、人材育成への継続的な投資も、こうしたビジョンの土台になっているそうです。

 

 一方で田中さんは、制度や施策が充実するほど、「それが経営にどう効いているのかが見えにくくなる」という課題を率直に指摘しました。役割等級制度やDE&I施策など、個々の取り組みは前進しているものの、方針が現場で自分ごと化されていない、部門間で分断が起きている、属人化した業務が残っているといった問題が重なり、全体最適の視点が持ちにくくなっているといいます。経営層、ミドルマネジメント、担当者それぞれが正しいことを言っていても、見ている景色が違うために議論が噛み合わない。その構造的なずれが、人的資本経営を「動かないもの」にしていると分析されました。

 

 この状況を打開するための試みが、同社の人事総務本部で仕事をするメンバーを繋ぐ「人総ダッシュボード」構想です。田中さんは、経営と現場が同じデータを見ながら会話できる状態をつくることが重要だと説明。KGIとして付加価値創出率を置き、そこから逆算してKPIと施策のつながりを可視化することで、人事・総務の仕事を経営価値に結び付けていく考え方です。メンタル不調者の増減といった課題でも、目的を「生産性向上」と捉えるのか、「社員の健康配慮」と捉えるのかで行動は変わります。ゴールを共有しなければ、現場ごとに異なる判断が積み重なってしまうという問題意識が、ダッシュボード構想の背景にあるそうです。

 

 検討プロセスにおいては、人事戦略推進室だけで完結させるのではなく、人事総務本部全体を巻き込み、対面での議論やヒアリングを重ねたそうです。その結果、課題や悩みを率直に共有できた一方で、「自分たちができること」に発想がとどまり、経営目線のツリー構造に結び付ける難しさも浮き彫りになったといいます。

 

 田中さんは、ダッシュボードは作って終わりではなく、レビューを通じて「その指標が本当に競争力向上につながっているのか」を問い続けることが重要だと強調しました。価値創造社員数といった実感値の指標を含め、試行錯誤を前提にアップデートしていく姿勢こそが、人的資本経営を現場で機能させるカギになるというメッセージで講演を締めくくりました。

 

 講演後のグループディスカッションでは、人事と各部門が同じ認識のもとでKPI / KGI を設定することの難しさや、指標やアウトカムを社内外に開示し続けるというチャレンジについて、などが話し合われました。


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 以上で2025年度の研究会は終了となりました。本コンソーシアムでは研究会の成果も踏まえ、3月4日(水)14時から、公開シンポジウムを慶應義塾大学三田キャンパス 北館ホールにて開催いたします。ぜひご参加ください。


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