【2024年度・第6回】11月13日開催記録
- Yukiko Kinugawa
- 2024年11月27日
- 読了時間: 6分
「人的資本経営研究コンソーシアム」の第6回研究会が2024年11月13日(水)に慶應義塾大学三田キャンパスにて開催されました。
1)なぜ組織にダイバーシティが必要なのか~意思決定層に女性を増やすには~
ジャーナリスト 浜田 敬子様
ジャーナリストとしてご活躍され、リクルートワークス研究所が発行する『Works』編集長も勤められている浜田様より、取材やサポートされている企業の事例を交えながら、ダイバーシティの中の、特に女性活躍について、お話しをしていただきました。
ジェンダー・ギャップ指数(GGI)も示すように日本はジェンダー後進国であり、世界との差は大きいようです。ジェンダーギャップランキング上位の国は競争力も高いため、日本の競争力の低下を防ぐためにもダイバーシティを進めなければいけない中で、浜田様が実際に取材をされたGGIが1位のアイスランドのお取組みについて紹介していただきました。
意思決定層に女性が多くなると多様な意見や新しい視点が得られるため、企業の成長にとって良いと言われていますが、ヨーロッパ諸国においても、取締役や管理職の比率を決める等、強制力がないとジェンダー平等は進まなかったということです。一方で、日本はかなり早い段階からジェンダー平等に取り組んできましたが、思うように進んでいません。支援制度は整備されていても、両立制度を使っているのは女性だけという現実があり、女性にとって本当に必要なキャリア支援も不十分だったという点が挙げられます。
浜田様が日本企業の不正問題の取材をされる中で、一番の問題は同質性だそうです。不正が起きる大きな要因は、内輪の論理で決めてしまうことであり、多様な人がいることで異論が言いやすくなります。企業に入ると同質性が濃縮されてしまうので、積極的に異質なものを入れていくことが必要ということです。
日本に迫る労働力不足の問題においても、女性活躍がカギになります。女性に活躍してもらう上で大事なのは、3K(機会を与える、期待する、鍛える)ということです。入社と同時に男性と同じように機会を与え、育休に入る前に一皮むける経験をしてもらい、子育て中の女性にもチャンスを与えていくことに取り組んでほしいというお話しをいただきました。
最後には、様々な企業様で取り組まれているユニークな事例を紹介していただきました。浜田様、ご講演ありがとうございました。

2)ダイバーシティとESG経営
専修大学 商学部准教授 湯山 智教様
続いて、毎回研究会にもご参加いただいている専修大学の湯山先生より、ダイバーシティに関する様々な研究や調査についてご紹介いただきました。
ESG経営のSにあたるダイバーシティについて考える場合、日本の文脈では女性活躍の度合いをあげることが多くなっています。ダイバーシティの推進は、一定の条件下においては、マクロでみても企業価値でみてもイノベーションへの影響でみても、効果があるとする既存研究が多くみられるようです。
例えば、取締役会のダイバーシティが企業価値に与える効果の中で、ベネフィットとしては創造性や多様な知見、様々な資源や人脈へのアクセス、広報・IR活動などが挙げられ、コストとしては、対立や断絶の発生、不適切な取締役選任リスク、利益相反・アジェンダの押し付けなどが挙げられるようです。取締役会に占める女性役員比率が30%に達すると良いパフォーマンスが得られるとの既存研究はわりと多く見られるとのことでした。
ダイバーシティは、組織内イノベーション創出につながるという既存研究も多く、いくつかの研究をご紹介いただきました。ただし、単にダイバーシティのある組織を表面的に作ったとしても、多様性のある人を受け入れて、組織を作ってくインクルージョンの部分がなければうまく機能しないことが分かっているそうです。
日本企業の現状としては、ダイバーシティが不十分です。女性の社内登用比率が低く、多くは社外取締役となっていることも大きな要因の一つのようですが、この男女格差の要因の“残り”の要因として注目されているものには、Child Penalty(子どもを持つことに伴う労働所得の減少割合)や、(ノーベル経済賞を受賞したゴールディン教授も指摘する)長時間労働プレミアムが挙げられるとのことです。また、これらのペナルティが人的資本蓄積にもたらす累積的影響として、適格候補者不足につながります。ある程度同じ状況にある欧米では女性役員比率等は日本よりも高いので、やはり日本的雇用システムに根本要因(=メンバーシップ制の下での企業特殊的人的資本を重視する慣行)があるのではないかという問題提起をしていただきました。
ご講演の後は、湯山先生のお話しを受けて、グループごとにディスカッションをしていただきました。

3)FFS理論に基づく「個が活きる」人材マネジメント
~強みで尊敬され、弱みで愛される~
relate株式会社 フェロー 堀川 拓郎様
2021年から2024年3月までリクルートの人材・組織開発室、室長を務められ、人材開発や組織開発、ダイバーシティの推進、サクセッションプランの策定などに取り組んでこられ、現在はワークス研究所の所長でもあるrelate株式会社のフェロー堀川様より、「個が活きる」人材マネジメントについてご講演いただきました。
一人一人が自分を生かし、チームで1+1が2以上の成果に繋がるようにマネジメントを行うことが大切ですが、現実は個が活きていない状態が多々あります。リクルートワークス研究所によると、個々の従業員が活躍できているとはいえないと回答している人の割合74.7%と高く、リクルートによると、働く喜びは仕事をする上で大切だと答えた人が多いにも関わらず10年間横ばいのようです。一人一人の個性を理解して捉えなおすことで、個性が発揮できて初めてパフォーマンスや仕事の喜びにつながります。働く人の持ち味や個性を捉えるときにFFSが活用できます。
FFSはFive Factors & Stressの略で、FFS理論は人が本来持つ潜在的な能力(5因子)を最大限活かし、人間関係・組織を最適化する理論です。サーベイでは問題の所在把握ができますが、FFSは問題の原因・打ち手まで提示できることが特徴です。FFS理論ができることして、①自己・他者を理解できる、②関係性を改善できる、③最適なチームを創れることが挙げられます。relate様が提供しているFFS個性診断では、思考行動に影響する5つの因子とストレスを定量化できるので、自己の強みをより良く発揮していく方法が分かります。具体的に堀川様の診断結果を見せていただき、診断結果からの個性の見方についても教えていただきました。
利用者からは、「相手を知るきっかけになる」や、「因子が違うのでコミュニケーションが成立しづらいことが分かれば、楽になる」などの声があるそうです。また、新入社員に指導者を付けるときに相性を見たり、経営チームのチーム編成に活用したりしている導入企業様もあるようです。職場の人間関係がうまくいっていないと離職が増えるので、人間関係での離職を減らす意味でもFFSが活用できそうです。
全体を通して、堀川様が所属されたリクルートの事例も数多くご紹介いただきました。ディスカッションの時間には、「「個を生かす人材マネジメント」を実践する上で、自社で強化すべきポイントはどこでしょうか?」という問いについて、グループごとにお話ししていただきました。堀川様、貴重なお話しをしていただき、ありがとうございました。

次回、第7回は12月12日(木)に開催予定です。従業員のキャリアデザインをテーマに取り上げます。
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