企業価値に資する人的資本経営コンソーシアム 2024年度公開シンポジウム開催記録
- Yukiko Kinugawa
- 4月16日
- 読了時間: 4分
2025年3月6日(木)、慶應義塾大学三田キャンパス北館ホールにて開催した公開シンポジウムには、関係者を含め100名を超える方々にご参加いただきました。シンポジウム後の意見交換会でも活発な交流が見られ、人的資本経営への関心の高さが伺えました。
第1部「人的資本経営のコミュニケーション戦略」では人的資本経営の最新動向と、社内外への効果的な伝え方が語られました。

冒頭、慶應義塾大学の保田隆明教授は、「人的資本経営は無形資産への投資を通じて企業価値を高める戦略」と位置づけました。近年、有価証券報告書での開示義務もあり、企業は「義務対応」から「先手を打つ姿勢」への転換が求められています。中でも注目されるのが、変化に対応する「アジリティ」と「レジリエンス」です。これらの力を高めることが、投資家をはじめとするステークホルダーからの評価を左右します。
さらに保田氏は、人的資本経営の「2.0」への進化を提唱。IR活動の強化だけでなく、従業員に方針を伝え浸透させる「社内コミュニケーション」も重要だと強調しました。投資家との関係構築では、個人・機関それぞれに応じた発信が不可欠であることや、従来の損益計算書(P/L)視点だけでなく、貸借対照表(B/S)視点の人的資本経営が今後のカギになると述べました。
続いて、株式会社電通PRコンサルティング 企業広報戦略研究所 所長の阪井完二氏は、存在感が高まる個人投資家に注目。

同社が開発した「非財務クロスバリュー」による分析では、個人投資家が最も重視している非財務情報は「人的資本」、中でも「従業員エンゲージメント」だと明かしました。特に若年層はSNSやYouTubeから情報を得る傾向が強く、企業には新たなコミュニケーション手段が求められています。好事例として、味の素の取締役会動画公開や、北國フィナンシャルホールディングスの人材エコシステム構築が紹介されました。
野村不動産ホールディングス株式会社 執行役員の宇佐美直子氏からは、同社の実践例をご紹介いただきました。

同社は人的資本を「個人×組織」と定義し、人材戦略を「適所適材」と「環境整備」の2軸で構成。ウェルネスやD&Iに加え、インクルーシブデザインをまちづくりに導入するなど、社会への発信も強化しています。
3者によるパネルディスカッションでは、「個人投資家とのオンライン対話」や「D&I推進のブレない姿勢」が議論されました。
オンラインでの発信には事前準備が不可欠であり、社員との対話や共通言語の明文化が、変革への土台になるとの意見が交わされました。会場からは社内への発信に対する質問が複数寄せられ、コミュニケーションについての関心の高さが伺えました。

第2部「人的資本経営を通じた企業価値向上策」では、冒頭に登壇した株式会社パーソル総合研究所の佐々木聡氏が、米国での反DE&Iの動きに触れながら、画一的な「輸入型マネジメント」から脱却し、日本独自の人的資本経営を議論すべき時期に来ていると指摘しました。人材への投資の少なさや生産性の停滞といった課題を背景に、経営戦略と人事戦略の連動が日本企業にとって重要であると強調しました。

続いて登壇したのは、J.フロント リテイリング株式会社の小野圭一社長。

同社では、従来の「人財管理」から「人財開発」への転換を掲げ、中期経営計画のなかで過去の成功体験からの脱却とグループの総合力の発揮に取り組んでいます。「巻き込むチカラを、面白がるココロを。」というポリシーのもと、従業員が意志を持って挑戦できる環境づくりを進めています。特にマネジメントのあり方や育成機会の整備に注力し、2030年までに女性管理職比率を40%に引き上げる目標も掲げています。
続いて、醸造機械のうち製麹機械分野の国内シェア8割を誇る、岡山県の株式会社フジワラテクノアートの藤原加奈代表取締役副社長が「多様な個の躍動」をテーマに、人的資本経営による企業変革の実例を紹介しました。

同社では社員一人ひとりの内発的動機を引き出し、専門性を高めることを重視した経営を推し進めています。評価制度の見直しや女性活躍支援、ビジョン「微生物インダストリー」の浸透により、地方の中小企業ながら年間800人の中途採用応募を集めるなど、企業価値の向上に成功しています。
パネルディスカッションでは、両者が経営トップとしての覚悟や責任感を語るとともに、人事部門が経営戦略に積極的に関与する重要性が共有されました。

小野氏は「人事は積極的に領空侵犯すべき」と表現し、自ら事業部に働きかける姿勢が変革を生むと述べました。藤原氏もまた、部門名を「コーポレートコミュニケーション部」に変更し、HRが経営に寄与する体制を整えたと話しました。
DE&I推進に対する姿勢については、両社とも信念を持って取り組んでおり、真摯な姿勢が優秀な人材の獲得や組織の活性化につながっていると強調しました。
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