【2025年度・第1回】5月30日開催記録
- さちえ 水野
- 6月12日
- 読了時間: 5分
「企業価値に資する人的資本経営コンソーシアム」の第1回研究会は、2025年5月30日(金)に慶應義塾大学三田キャンパスにて開催されました。3期目を迎えた本コンソーシアム、第1回研究会には65名が参加しました。

冒頭、コンソーシアム代表の慶應義塾大学 保田隆明教授によるオープニングに続いて、参加企業15社から一言ずつご挨拶いただきました。人的資本経営については、「グローバルな事業における人的資本経営を学びたい」「社内で議論してきたコンセプトを制度に展開していきたい」「フットワーク軽く実践したい」「経営戦略と連動させたい」など、多様な業種や立場からのご関心が伺えました。今年度も、理論や実践例を学びながら経験と知見を持ち寄る、活発な議論の場となりそうです。
プログラム 1)
2024年日経統合報告書アワード グランプリ受賞企業様による発表
グランプリ受賞企業様3社に、お取り組みを発表していただきました。
(日経統合報告書アワードについてはこちらhttps://ps.nikkei.com/nira/result24.html)
■株式会社イトーキ様
創業時から受け継がれるDNAを「TECH×DESIGN based on PEOPLE」と再定義し、経営戦略と融合させた人的資本経営を、高いデザイン性で伝える統合報告書を作成されました。事務局10名と分科会による通年体制で推進し、社長直下のIR・SR部が人事企画等と連携。「笑顔の写真」を多用し、社員個々の顔が見える誌面づくりにより、「次は自分も登場したい」という社内の好循環も生まれたとのことです。ページ構成を社内で作り込み、役員メッセージではキーワードを設定しつつも、役員自身の言葉で語ってもらうことを意識しているそうです。
質疑では、経営層のコミットや、事業のPDCAとの関係、社内浸透策などについて質問があり、役員の積極関与や社内セミナー、web社内報連載、ダイレクトメールによる情報発信など、多面的な取り組みが紹介されました。統合報告書を単なる開示資料にとどめるのではなく、企業と社内外のステークホルダーをつなぐツールとして活用しているとのことでした。
■オリックス株式会社様
人事部門にフォーカスした取り組みをご紹介いただきました。オリックスグループでは、多様な事業を進める社員が同じ方向へ向かうために、2023年に「パーパス(存在意義) & カルチャー(価値観)」を制定したそうです。「パーパス&カルチャー」の制定によって社内の暗黙知が言語化され、独自の人的資本フレームワークにつながりました。
具体的には、人的資本経営の起点・中心は「事業」であり、最終目標は「パーパス&カルチャー」の実現、それを支える人的資本を「コアバリュー」「コアケイパビリティ」「多様な人材が活躍できる職場づくり」の3点に整理し、統合報告書で表現したそうです。中でもコアバリューについては、「変化にチャンスを見出す」「挑戦をおもしろがる」「多様性を力に変える」という3つのカルチャーが歯車のように噛み合うことで、事業の実践につながると表現するなど、随所にオリックスらしさを反映したとのことでした。
質疑では、挑戦をおもしろがるカルチャーの醸成方法や、描く理想と人事制度のつながりについて議論が交わされました。
■株式会社しずおかフィナンシャルグループ様
「読みやすさ」と「ストーリー性」を重視し、投資家のみならず社員や地域の方々、未来世代にもメッセージが届くような構成を意識されたそうです。CEOメッセージでは「柴田さん(CEO)に聞いた3つのコト」という、人柄が伝わるページを追加。また、経営基盤である静岡の重要課題と、自社の課題を並列で扱うマテリアリティの設定が特徴的とのことでした。加えて2024年からは、冊子の他に統合報告書のダイジェスト動画を作成したそうです。「概念」「地域課題解決に向けた取り組み」「人的資本」の3本柱で作られたダイジェスト動画は、社内研修や個人投資家向けIRイベントの開始前に投影するといった、フックとしても有効とのことでした。
質疑では、統合報告書作成にあたっての社内体制や、ダイジェスト動画に対する社内外の反応、幅広い読み手へ伝えるための工夫についての議論が交わされました。「親近感」や「共感」につながる統合報告書の作り込み方や、多様なチャネルでの届け方について、関心の高さがうかがえました。
プログラム 2) 講義 「労働とウェルビーイング」
慶應義塾大学 総合政策学部 専任講師 佐藤豪竜先生
医療経済学や社会疫学がご専門の、佐藤先生による講義です。まず、イギリスのマイケル・マーモットらによる研究「Whitehall Study II」が紹介されました。研究ではイギリスの国家公務員約2.8万人への長期コホート調査により、職位によって心疾患の死亡率に大きな差があることが明らかになったそうです。さらに医療や生活習慣では説明できない要因として、「職業性ストレス」の存在が示されました。
佐藤先生は、職業性ストレスを測るための代表的モデルとして、社会学者・心理学者であるロバート・カラセックの「仕事の要求度」と「仕事のコントロール」の2軸モデルを紹介。特に「仕事の要求度が高く、仕事のコントロールが低い(裁量がない)」状態が最も高ストレスであり、心疾患のリスクが高まることが、数々の調査から示されているそうです。
さらに、自動車メーカーのボルボがライン作業をチーム制にリデザインしたことで、社員のストレス低減と健康への好影響が、血中アドレナリン値で確認された事例も紹介されました。また、レゴを用いた別の実験では、仕事に「意味」を感じられるかどうかが、生産性に影響する結果も示されました。
講義後は、「職業性ストレスを軽減するためのジョブ・リデザイン」についてグループディスカッションが行われました。人材育成目的でプログラミング業務をチーム制にしたところ、生産性向上にもつながった事例が紹介されたり、日本の管理職が「職業性ストレスを測る2軸モデル」のどの群に当てはまるかが議論されたりと、有意義な学びが共有されたようです。
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研究会後は、キャンパス内のファカルティクラブにて懇親会が行われました。参加者全員の自己紹介を踏まえ、大きな盛り上がりを見せました。

7月9日(水)の第2回研究会では、「人的資本経営におけるOJTの現在地」「若手社員のインクルージョン効果:シャドーボードとリバースメンタリング」「2024年度の統合報告書アワードで見られた変化(仮)」の3テーマにて開催予定です。どうぞご期待ください。
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