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2026年度 第1回研究会 開催記録


 「企業価値に資する人的資本経営コンソーシアム」の第1回研究会は、2026年5月27日(水)に慶應義塾大学三田キャンパスにて開催されました。

研究会会場となった三田キャンパス東館
研究会会場となった三田キャンパス東館

 冒頭、コンソーシアム座長の慶應義塾大学 保田隆明教授によるオープニングに続いて、参加企業14社から一言ずつご挨拶いただきました。人的資本経営については、「人的資本投資の成果をどのように可視化するかが課題」、「経営戦略と人材戦略をどう接続するかを知りたい」、「AI時代における人材ポートフォリオをどう設計するかについて議論したい」など、多様な業種や立場からのご関心が伺えました。今年度も、理論や実践例を学びながら経験や知見を持ち寄り、活発な議論を深める場となりそうです。

 

プログラム①

「企業変革のための採用・配置を考える」

日本電気株式会社 

ピープル&カルチャー部門 タレントマネジメント統括部

タレント・アクイジショングループ ディレクター 

大橋 康子様

 

 リクルートメディアコミュニケーションズ、レジェンダ・コーポレーション、LINEで採用業務に携わり、現在はNECでタレント・アクイジションを統括する大橋康子さんによるご講演です。約30年にわたり採用の最前線で人材獲得に向き合ってきた経験をもとに、採用市場の変化と企業変革における採用機能の役割についてお話しいただきました。 


大橋康子さん
大橋康子さん

 大橋さんはまず、労働市場が大きな転換点を迎えていると指摘しました。かつて日本では、新卒一括採用と終身雇用を前提としたメンバーシップ型雇用が一般的であり、転職は例外的な選択肢とみなされていました。しかし近年は、キャリア形成のための転職が広く受け入れられるようになり、コロナ禍による働き方の変化やAIの普及によって、企業と個人の関係性そのものが変わりつつあるといいます。企業が個人の人生を支えるのではなく、個人が自身のキャリア形成に役立つ企業を選ぶ時代へ移行しているとの見方が示されました。

 

 特にAIの進展は、採用にも大きな影響を及ぼしているそうです。ルーティン業務の自動化が進むことで、従来のエントリーレベルの仕事は減少し、新卒採用のあり方も変化する可能性があります。その一方で、人間にはより高度な専門性や創造性が求められるようになります。企業は学歴や職歴だけではなく、候補者がどのような経験を積み、どのようなスキルを身につけているのかを見極める必要があると説明されました。

 

 続いて紹介されたのが、採用機能そのものの変化です。大橋さんは、従来の「リクルーティング」と「タレント・アクイジション」を区別して考える重要性を強調しました。リクルーティングが既存の募集ポジションに人材を充足する活動であるのに対し、タレント・アクイジションは事業戦略に基づいて必要な人材像を定義し、採用ブランドを構築しながら将来を見据えて人材を獲得していく考え方です。採用後の定着や活躍支援まで含めて設計することが求められ、採用は単なる人材調達ではなく、経営や事業成長に直結する機能になっているとの認識が示されました。

 

 また、採用活動において重要なのは、企業を「キャリアを形成できる場」として候補者に伝えられるかどうかだといいます。これからは「どの学校を出たか」ではなく、「どのような経験を積み、どのような価値を生み出せるのか」が問われる時代になります。企業側も、入社後にどのような成長機会があり、どのようなキャリアが描けるのかを具体的に示していく必要があるとの考えが示されました。

 

 講演後のグループディスカッションでは、AI時代における新卒採用のあり方や、中途採用者のオンボーディングの重要性について活発な議論が行われました。参加者からは、技術や事業環境の変化があまりに速く、人材要件そのものを長期的に定義することが難しくなっているとの声があがりました。また、入社の一年以上前に内定を出す新卒採用の現状についても、企業と学生双方にとってミスマッチのリスクが高まっているのではないかとの意見が共有されました。

 

 さらに、採用面接における「志望動機」の位置づけについても議論が及びました。大橋さんは、志望動機そのものよりも、「何に対してモチベーションが高まるのか」「どのような場面で力を発揮できるのか」といった個人の動機の源泉を理解することが重要だと説明しました。その理解が、採用後の育成や配置、さらにはエンゲージメント向上にもつながるとの見解が示されました。

 

 最後に、採用から配置、育成、ブランド形成までを一貫した仕組みとして機能させる難しさについても議論されました。大橋さんは、NECでも当初は各機能が分断されていたものの、採用後の活躍支援や人事部門間の連携を積み重ねることで、少しずつ全体最適に向けた体制を構築してきたと紹介しました。人的資本経営が重視される中、採用を単独の機能として捉えるのではなく、企業変革を支える戦略的な仕組みとして再構築していく必要性を改めて考えさせられる機会となりました。



プログラム②

「人的資本開示の最新トレンドと 経営/事業戦略⇔人的資本を接続するポイント」

プロフィンクス株式会社

執行役員 パートナー

今堀 元皓様

 

 企業価値向上や人的資本経営の支援を手掛けるプロフィンクス株式会社の今堀元皓さんによるご講演です。今堀さんは、人的資本開示をめぐる最新動向を整理するとともに、経営戦略と人材戦略をどのように結び付け、企業価値向上につなげていくべきかについて、豊富な実務経験を交えながら解説されました。


今堀元皓さん
今堀元皓さん


 講演ではまず、人的資本開示を取り巻く環境変化について説明がありました。2023年の人的資本開示義務化から3年が経過し、多くの企業で開示そのものは進展しました。一方で現在は、単に人的資本に関する指標を開示する段階から、事業戦略や企業価値向上とどのようにつながっているのかを説明し実践する段階へと移行しているといいます。2025年3月に改訂された人的資本可視化指針では、「人的資本への依存と影響」や「人的資本に関するリスクと機会」といった観点が追加されました。また有価証券報告書では、経営戦略と人材戦略の連動や従業員給与決定方針などの開示も求められるようになっており、人的資本を企業価値創造の文脈で説明する重要性が高まっています。近年日本企業で取得が進んでいる人的資本に係る国際ガイドラインであるISO30414を活用した、リスクと機会の整理手法についても説明されました。

 

 続いて紹介されたのが、人的資本経営の本質です。今堀さんは、「人的資本経営は、単に人を大切にする経営ではない」と指摘しました。従来の日本企業では、人材を企業の所有物のように捉える発想が少なからず存在していました。しかし人的資本経営では、人材は企業の所有物ではなく個人に帰属する資本であり、企業はその能力や可能性を引き出しながら価値創造につなげることが求められます。そのため、人事部門だけではなく経営陣が主体となって取り組む必要があり、近年は経営視点から人材戦略を担うCHRO(最高人事責任者)の重要性も高まっていると説明されました。

 

 また、経営戦略と人材戦略の分断は多くの企業で見られる課題だといいます。実際の支援事例では、経営会議と人事部門の議論が十分に接続されず、事業戦略と人材戦略が別々に策定された結果、最終的に整合性が取れなくなるケースもあったそうです。人事データと事業データが組織内で分散し、有効活用されていない企業も少なくありません。こうした状況を解消し、経営と人事を一体的に運営する仕組みづくりが重要であるとの考えが示されました。

 

 講演の後半では、経営戦略と人的資本を接続するための実践的なフレームワークとして「3本の矢」が紹介されました。第一の矢は「人的資本ロジックモデル」です。人材施策を実施すること自体を目的とするのではなく、その施策が人や組織にどのような変化をもたらし、それがどのように事業成果へつながるのかを論理的に整理する考え方です。アウトプットと最終成果だけでなく、その間にある人材や組織の変化を「直接アウトカム」「中間アウトカム」として整理することで、人材施策と経営成果との関係を可視化できると説明されました。

 

第二の矢は「人材ポートフォリオ戦略」です。事業ポートフォリオと連動させながら、将来必要となる人材を質と量の両面から定義し、獲得・育成・配置を考える手法です。特に重要なのは、人材の質をどのように可視化するかという点であり、近年はAIを活用して職務やスキルを定義する取り組みも進んでいます。今堀さんからは、ある企業によるスキル可視化の事例などが紹介されました。

 

 第三の矢は「独自性のある人的資本KPI」です。開示が義務化されている共通指標は企業間比較に有効ですが、それだけでは企業の特徴は伝わりません。投資家が求めているのは、人的資本への投資がどのように企業価値向上につながるのかというストーリーです。そのため、自社の事業戦略や人材戦略と連動した独自の指標を設定し、継続的に説明していくことが重要であると述べられました。具体的な事例も紹介され、事業戦略と人材戦略のつながりを分かりやすく示すことの重要性が示されました。

 

 講演全体を通じて強調されていたのは、「人的資本開示そのものが目的ではない」という点です。重要なのは、経営戦略と人材戦略を一体的に設計し、人材への投資をどのように事業成果や企業価値向上へ結び付けるかを考えることです。人的資本経営を単なる開示対応に終わらせるのではなく、企業変革や持続的成長を支える経営の仕組みとして実践していく重要性を認識する講演となりました。

 

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 研究会後は、キャンパス内のファカルティクラブにて懇親会が行われました。参加者の自己紹介を踏まえ、大きな盛り上がりを見せました。

 

7月28日(火)の第2回研究会では、「人的資本は生産性に寄与するのか」「経営戦略の進化」等の3テーマにて開催予定です。どうぞご期待ください。

 



 





 



 

 
 
 

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